Archive for 3月 2005
網膜剥離・裂孔と黄斑部の網膜上膜
網膜黄斑部の内面に収縮性のある病的な膜「黄斑(部の網膜)上膜」が形成されることがあります。その成因・原因として、特発性 idiopathic epiretinal membrane (原因不明) のもの、眼球後部の血管病変・炎症性疾患によるもの、眼外傷後、網膜剥離手術後、網膜光凝固術後などが知られています。主症状は、視力低下と変視症(ものが歪んで見える)です。黄斑パッカー macular pucker, 黄斑上膜 epimacular membrane, 網膜上膜 epiretinal membrane, 網膜上(前)線維増殖 epiretinal gliosis は同意語 (同一疾患名)です。
網膜裂孔や裂孔原性網膜剥離に伴う黄斑上膜の手術予後
J Fr Ophtalmol. 2003 Apr;26(4):364-8.
Prognosis of surgery in epimacular membranes after retinal break or rhegmatogenous retinal detachment
Gribomont AC, Levi N.
Service d’Ophtalmologie, Cliniques Universitaires St-Luc, Universite Catholique de Louvain, 10, avenue Hippocrate, B1200 Bruxelles, Belgique.
目的: 網膜裂孔や裂孔原性網膜剥離後に発生する網膜上膜の予後は、治療・未治療を問わず、特発性のものと同じように良いとは見られていないが、しかし充分な調査は未だ行われていない。網膜上膜治療に伴う網膜合併症や機能的な治療成績について解析した。
方法: 黄斑上膜の手術例 28症例 (連続した手術ケース) を対象とした後向き研究で、経過観察期間は最短3ヶ月。黄斑上膜の再発率、術後の網膜剥離の発生・再発の頻度とともに、水晶体の状態も考慮して、術前視力と術後 3ヶ月-6ヶ月の視力結果と比較した。
結果: 2段階以上の視力改善は、28症例中16例 57% で得られた。改善症例の内訳は、白内障進行例では 36% (4/11)、術前から眼内レンズ状態の症例では 50% (3/6)、水晶体に変化がなかった症例では 80% (8/10) であった。平均 8.7ヶ月の経過観察中、黄斑上膜の再発はなかった。術後の網膜剥離の発生・再発は、25% (7/28) にみられた。
考案・結論: 今回の結果を文献報告されている特発性網膜上膜の治療成績と比較したところ、網膜裂孔や裂孔原性網膜剥離後に発生する黄斑上膜においても良好な手術予後が得られた。
頭部外傷 脳血管障害 斜視 複視
脳障害後にみられる斜視、複視
J Neurol. 1996 Jan;243(1):86-90.
Squints and diplopia seen after brain damage.
Fowler MS, Wade DT, Richardson AJ, Stein JF.
Department of Physiology, Oxford University, UK.
脳障害後の斜視の頻度を調査しました。専門医による神経リハビリテーション・ユニットに入院した 239症例 (症例を抽出するのではなく、続いて入院した全症例)を対象としました。脳血管障害 129例、頭部外傷 84例、他疾患 26例でした。視力検査、カバーテスト、眼球運動の記録、両眼視機能検査などを含む通常の斜視関連検査を行いました。
全症例中、89例 (37%) に斜視がみられましたが、斜視を呈した患者の 36% (32症例)のみが複視を自覚しました。末梢性眼球運動障害の原因となる脳幹部病変は頭部外傷患者では高頻度 (56%) に発見されました。大脳皮質の脳血管障害者 95例中 27症例 (28%) に斜視がみられましたが、脳幹部障害による他の所見を伴わないことが多かった。左右大脳半球障害における斜視の頻度は同程度でしたが、右大脳半球障害では複視の発生が抑制されているようでした。
結論として、脳幹部に明らかな異常がなくても、斜視は脳障害後によくみられます。しかし、斜視を呈していても、複視を自覚する症例は少ないと言えます。
抗ヒスタミン薬 ジルテック
米国食品医薬品局 FDA の評価と解説(日本語訳)をお知らせいたします。
■ 塩酸セチリジン(商品名 ジルテック錠など)
効能・効果: アレルギー性鼻炎, 蕁麻疹, 湿疹・皮膚炎, 痒疹, 皮膚そう痒症
特徴・作用: 選択的 H1受容体拮抗作用を有する抗ヒスタミン薬. ヒドロキシジン hydroxyzine のヒト代謝産物
リスク分類「B」
生殖期の動物による比較試験(controlled studies)では、動物胎児にリスクはありません。
妊婦を対象とした充分な比較臨床試験はありません。
【胎児へのリスク】
動物実験では催奇形性はありませんが、高用量では胎芽毒性がみとめられています。ヒトに関する充分なデータはありません。
【授 乳】
乳汁中に分泌されます。分泌量は不明です。
抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬内服薬全般の解説については、ホームページ
「おくすり110番・・病院の薬がよくわかる」内の「妊娠と薬_04-030」
http://www.okusuri110.com/kinki/ninpukin/ninpukin_04-030.html
をおすすめいたします。
カテゴリ「A-X」については、
http://category.xrea.cc/drugs/000001.html
のリンク先でご確認下さい。
FDA: A, B, C, D, X
TGA: A, B1, B2, B3, C, D, X
網膜剥離 年間発生頻度 危険因子
最近の報告では、裂孔原性網膜剥離 ( Rhegmatogenous Retinal Detachment RRD ) の年間発生頻度は、5-14人/人口10万人 (1987年以降の4論文) で、わが国においても、1万人あたり1人と言われています。リスク(危険)因子については、従来から 年齢、白内障手術、近視、眼外傷の既往歴 がよく知られています。
Polkinghorne PJ, Craig JP による下記の疫学調査論文の要約をお伝えします。
北ニュージーランドにおける裂孔原性網膜剥離の調査: 疫学とリスク因子
Clinical and Experimental Ophthalmology 2004; 32: 159-163.
Northern New Zealand Rhegmatogenous Retinal Detachment Study: epidemiology and risk factors
Philip J Polkinghorne FRCOphth and Jennifer P Craig PhD
Department of Ophthalmology, University of Auckland, Auckland, New Zealand
国・地域 年間発生頻度(10万人あたり) (調査期間) 患者数 [表示順]
* 北ニュージーランド 11.8 人 (1997/5-1998/4) 141人 (注1)
* Olmstead (カウンティ 米国) 17.9 人 (1976-1995) 311人 (注2)
* Örebro & Värmland (スウェーデン) 12.9 人 (1976-1980) 289人 (注3)
年齢層別 年間発生頻度 (人/10万人) (上記の調査順)
[0-29才]
北NZ 4.7
USA 5.0
Sweden 2.3
[30-59才]
北NZ 10.0
USA 18.3
Sweden 10.4
[60才以上]
北NZ 40.0
USA 49.7
Sweden 27.9
注1: 男性 1.4/万人, 女性 1.0/万人 (統計学的には有意な性差なし)
(以下の注2-3は引用論文およびメタ解析データより)
注2: 初回手術不成功例であっても手術数として合計しているので、頻度が高くなっている可能性あり。
注3: スウェーデンにおける一連の報告をメタ解析したデータ。60才以上では、北ニュージーランドや米国より発症頻度は低い。
方法:
前向き調査。データ収集期間は 1997/6 から 1998/5 の1年間。実際の受診時期は 1997年5月から1998年4月。
北ニュージーランドには 120万人が住む。
採用基準 (除外基準)
RRD の定義: 液化硝子体が網膜下腔に入り込んで剥離している面積が少なくとも 2乳頭径 DD となっている網膜内の裂孔。
外傷、網膜剥離、網膜裂孔の既往があってもよい。
眼内手術歴も含む。
糖尿病で見られるような複合型の牽引を伴う裂孔原性網膜剥離は除外する。
黄斑円孔による限局性網膜下液も除外する。
原発部位の治療後4ヶ月以内に再発したケースは、手術不成功とみなし、別記録とした。
結果:
合計 141症例 146眼。女性 61例, 男性 80例。
全体的な頻度は 人口10万人当たり 11.8人 (95% 信頼区間 9.8-13.7)
年齢 5-96才 平均 53.9才 (標準偏差 19.6)
60代が最も多い (60代前半は女性が多く 59%、後半は男性が多い 65%)
全体的な男女比 1.3 : 1
RRD 発症前の眼外傷既往歴 16.4%: 大部分は重傷 (穿通性外傷、白内障創■開 [口+多]、眼球破裂)。外傷群の 87.5%は 50才未満であった (50才未満は RRG全体の 35.6%)。
外科的網膜疾患の既往歴: 13症例では、過去に同一眼の網膜裂孔のため治療を受けており、5症例は他眼の網膜裂孔を指摘されていた。12症例では、過去に同一眼に RRD が発症していた。9例は過去に他眼において RRD が発症していた。5例 3.5% は今回調査中、両眼性の RDD であった。
Tornquist らの報告 (スウェーデン, 1987)では、両眼性 RRD 11.2%であった。また、過去に同一眼の RRD 発症があった頻度は 6.4% と報告している (初回手術から6ヶ月以内に再発した症例は除外する基準)。今回の調査データは、それぞれ 3.5%, 8.2% となる。RDDの両眼性発症と再発は、予防的治療の有用性の議論に対する回答とはならないが、個々の患者のために自覚症状の知識の必要性を強調したい。
近視: -6.0D 以上を強度近視と定義した。33症例 23% は強度近視であった。
白内障手術歴: RRD を来たした患眼中 48眼 33% は白内障手術を受けていた。手術方法は超音波乳化吸引術 31眼、水晶体嚢外摘出術 11眼、不明 6眼であった。白内障手術後 RDDを来たすまでの期間は最長 38年であった。約半数は白内障手術後2年以内に RRDが発症し、これらの症例の75%は 12ヶ月以内であった。
リスクファクター(リスク因子 危険因子):
単変量解析法を行ったところ、若いときに発症するRRD earlier in life は 眼外傷、強度近視、白内障治療歴に関連していたが、性別の男性は無関係であった。
多変量 Cox 比例ハザード・モデル multivariate Cox proportional hazards model では、early RDD について、
眼外傷既往歴あり 4.1 倍 (95% 信頼区間 2.6-6.6 P=0.0001)
強度近視(-6.0D 以上) 1.9 倍 (95% 信頼区間 1.2-2.8 P=0.0024)
白内障手術歴あり 1.9 倍 (95% 信頼区間 1.3-2.7 P=0.0008)
性別は危険度とは無関係 (P=0.64)。
白内障手術例で手術合併症を有する15症例については、10例が手術後 2年以内に RRDを来たしている (3週から29年)。合併症がなかった白内障手術例との発症時期の比較では有意差なし (P < 0.05)。
手術合併症とは、眼内レンズの偏位、前房内硝子体ヘルニア、瞳孔偏位 peaked pupil、後嚢破裂、合併症有りと記載されたもの。
近視は、特発性 RRD において最も相対危険度の高いリスク因子と報告 (Eye Disease Case-Control Study Group) されているが、今回の調査では低かった。
上記の Olmstead County Study と International Cataract Surgery Outcomes Study では、有水晶体眼に比べて白内障術後に RRD発症リスクは 5.5-7.6倍高くなるとされているが、これら報告では手術合併症を有する白内障手術眼についての検討はない。
後天性 内斜視
急性後天性共同性内斜視: 前向き調査
Eye. 1999 Oct;13 ( Pt 5):617-20.
Acute acquired comitant esotropia: a prospective study.
Lyons CJ, Tiffin PA, Oystreck D.
Department of Ophthalmology, British Columbia’s Children’s Hospital, Vancouver, Canada.
目的: 急性発症の内斜視を呈した症例の臨床的特徴と中枢神経系の病理像を解明する。両眼視機能の予後を評価し、最適な治療法について考案する。
方法: 1994年1月から1997年4月にかけて、大学教育病院の小児眼科にて受診した本疾患の全患者について前向き臨床調査を行った。すべての眼科検査を行い、CT ないし MRI のために小児神経科医に紹介した。
結果: 調査期間中に10症例が受診した。レンズ矯正していなかった遠視 と monofixation 症候群 で代償不全となった ケースが原因として最も多かった。小脳腫瘍 1症例がみられた。遠視の完全矯正だけで 5症例は、両眼視機能が完全回復した。5症例では、両眼の内直筋後転術を行った。両眼視機能は中心窩固視の 5症例全例で回復した。
結論: 斜位 ないし monofixation syndrome の代償不全が最も多い原因であった。毛様体筋の麻痺点眼薬を使用した完全遠視矯正レンズの処方が初期治療で本質的なものである。腫瘍が原因であった症例では、決め手となる単一臨床所見はない。遠視がない、融像能力に問題がない、非典型像がある、神経学的所見があるケースでは、常に脳疾患の疑いを持ち、脳の画像診断検査を考慮すべきである。
訳者注: monofixation 症候群 については、
解説ページ「先天性内斜視、EBM、monofixation症候群」
http://infohitomi.biz/archives/000017.html
をご覧下さい。
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