Archive for 9月 2004
強膜エクソプラント (シリコンスポンジなど) 除去術と網膜剥離の再発
強膜エクソプラントの除去術について:過去10年間
Eye. 2003 Aug;17(6):697-700.
Scleral explant removal: the last decade.
Deokule S, Reginald A, Callear A.
Birmingham and Midland Eye Centre Dudley Road Birmingham, UK.
目的:過去10年間における強膜エクソプラント除去術の理由と結果について調査する。
方法:1990年1月から1999年12月までの10年間に手術室にて強膜エクソプラント除去術を受けた症例について、年齢、性別、除去の理由、初回手術から摘出術までの期間、エクソプラントの素材、症状改善度、再剥離を含む術前・術後の網膜の状態、再剥離の原因、経過観察期間などを診療録上で調査し、Mann-Whitney U 検定, Fisher 正確確率検定により統計解析を行った。
結果:72症例が選択された。平均年齢 54.1才(標準偏差17.0才、17-84才)であった。エクソプラント留置期間は平均 50.1年 (1ヶ月-282ヶ月)、観察期間は平均 18.3ヶ月 (4-120ヶ月)であった。51症例 (70.8%) はシリコンスポンジ製、13症例 (18%) は固形タイプのシリコンであった。8症例 (11.1%)では両素材が用いられていた。除去の最大の理由は、エクソプラントの突出・露出(n=34, 47.2%)、眼痛(n=29, 40.2%)であった。自覚症状は88%の症例で改善した。6例 (8.3%)は除去後に網膜の再剥離を来たした。除去の理由や留置期間と網膜再剥離の発生との関連性はなかった。6例中5例では除去術後6ヶ月以内に再剥離を来たした (P<0.01)。
結論:強膜エクソプラントの除去術により、多くの症例で自覚症状は改善するが、少数例では、特に除去後6ヶ月以内に再剥離を来たすリスクがある。
サルコイドーシス 耳下腺炎 ぶどう膜炎 顔面神経麻痺 発熱
サルコイドーシスによる Heerfordt 症候群の熱型は、一般的には持続性の微熱です。
Nippon Rinsho. 2002 Sep;60(9):1822-6.
Heerfordt syndrome
Takahashi N, Horie T.
First Department of Internal Medicine, Nihon University School of Medicine.
Heerfordt症候群は、発熱、ぶどう膜炎、耳下腺腫脹、顔面神経麻痺を特徴とし、2000年までに日本では53症例の報告がある。ほとんどの症例は20~40才であり、女性の方が多い。確定診断のために、サルコイドーシスの病理組織診断が必要で、その他にガリウムシンチググラフィによる眼部、耳下腺、肺門部のガリウム集積像が診断に役立つ。プレドニゾロンによる薬物治療は、特に顔面神経麻痺の際に必要となる。
Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 2000 Mar;17(1):27-32.
Parotid gland sarcoidosis.
James DG, Sharma OP.
Royal Free Hospital, London, UK.
耳下腺サルコイドーシスは全症例の6%に発生します。自験例では、両側性24症例 (73%) で、僅かに女性例が多く、大多数は20代から40代の年齢でした。他の全身組織、特に胸郭内、末梢リンパ節腫脹、ぶどう膜炎、涙腺腫脹、皮膚病変などに広範にみられました。病変部位のパターンはHeerfordt症候群としての診断上、特異的かもしれない。本報告にて、鑑別診断、画像診断、生検法、治療法に言及します。
Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 1997 Sep;14(2):115-20.
Differential diagnosis of facial nerve palsy.
James DG.
Royal Free Hospital, London, UK.
顔面神経麻痺はサルコイドーシスにみられる神経学的所見の中で最も多い。両側、片側は同数で、左側、右側も同数である。若年成人が両側顔面神経麻痺を来たしたとき、サルコイドーシスが最も多い原因である。眼部病変を伴った 147症例の自験例中、顔面神経麻痺は12%にみられ、耳下腺腫脹は10%にみられた。顔面神経麻痺は80%の症例で完全回復した。口腔顔面領域の肉芽腫症では、顔面神経麻痺は再発しやすいが、本症では再発しない。鑑別診断の対象疾患は多く (表 1), 充分な検査が必要である。治療法など解説する。
眼障害 エコノミークラス症候群 航空機 フライト 海外旅行
オンライン医学文献検索サービス Medline を利用し、航空機関連の眼障害を調査しました(過去40年間余り)。以前からよく知られていますが、眼内に空気や膨張性ガスが入っている術後状態での航空機利用は危険です。硝子体手術後の方は、必ず搭乗前に、主治医や航空機会社カウンターなどでお尋ね下さい。なお、エコノミークラス症候群は眼障害とは関係ありませんが、発症頻度をお伝えします。
報告症例 (文献要約のみ、引用文献の調査は行っておりません)
(1) 48才、健康な男性、左眼の前部虚血性視神経症、大西洋横断の15時間のフライト中12時間以内に発症。発症機序として、血栓塞栓形成ないし低酸素分圧による血管痙攣が疑われた。
(2) 女性、顔面骨骨折、眼球損傷 (放射状角膜切開術後)、航空機事故
(3) 剖検例、結膜下出血、航空機墜落事故
(4) 58才、男性、網膜剥離術後(硝子体手術)、眼内ガス充填術 (空気使用、眼内の30%以下の置換状態)のため、機体高度上昇中に眼痛と視力低下自覚。
(5) 38才、女性、網膜剥離術後(硝子体手術)、眼内ガス充填術 (パーフルオロエタン C2F6混合率15% 使用。眼内の50%置換状態)、ブレンナー峠を越えるため機体高度上昇中に激しい眼痛と視力低下を自覚 (約3分間)。高度降下により症状改善。
(6) 62才、女性、糖尿病網膜症のため汎網膜光凝固術施行後、類嚢胞様黄斑浮腫の悪化、42時間のフライト
その他
(7) サル眼での実験(6匹。航空機をシミュレート):硝子体手術、空気-液体置換術後では、少量0.25 ccの眼内空気により眼圧は平均42mmHgに上昇した。中心動脈閉塞症と瞳孔ブロックが観察された。
(8) エコノミークラス症候群 (肺血栓塞栓症 PTE):スペインMadrid-Barajas 空港に着陸した乗客の6年間の調査 (1995年1月~2000年12月) では、6時間以上のフライトで16症例の発症。全体では、乗客100万人当たり平均 0.39人【95%信頼区間 CI 0.20-0.58】に発症し、8時間以上のフライトでは、平均 1.65人【95%CI 0.81-2.49】であった。6-8時間のフライトにおける発症率 平均 0.25人【95%CI 0-0.75】に比べて有意に多かった(P<.001)。
参考文献(要約)
(1) Am J Ophthalmol. 2002 Apr;133(4):581-3.
Anterior ischemic optic neuropathy after a trans-Atlantic airplane journey.
Kaiserman I, Frucht-Pery J.
Department of Ophthalmology, Hadassah University Hospital, Jerusalem, Israel.
(2) J Refract Corneal Surg. 1994 Jan-Feb;10(1):31-3.
Severe ocular trauma without corneal rupture after radial keratotomy: case reports.
Casebeer JC, Shapiro DR, Phillips S.
Casebeer Center for Keratorefractive Research and Education, Scottsdale, Ariz 85260.
(3) Am J Forensic Med Pathol. 1995 Dec;16(4):320-4.
Airplane crash. Traumatologic findings in cases of extreme body disintegration.
Hellerich U, Pollak S.
Institute of Pathology, University of Freiburg, Germany.
(4-5) Ophthalmologe. 2000 May;97(5):367-70.
Expansion of intraocular gas due to reduced atmospheric pressure. Case report and review of the literature
Gandorfer A, Kampik A.
Augenklinik, Ludwig-Maximilians-Universitat, Munchen.
(6) Aviat Space Environ Med. 1995 May;66(5):440-2.
Aggravation of laser-treated diabetic cystoid macular edema after prolonged flight: a case report.
Daniele S, Daniele C.
Department of Surgical Specialties, University of Perugia, School of Medicine, Italy.
その他
(7) Ophthalmology. 1986 May;93(5):642-5.
Air travel and intraocular gas.
Dieckert JP, O’Connor PS, Schacklett DE, Tredici TJ, Lambert HM, Fanton JW, Sipperley JO, Rashid ER.
(8) Arch Intern Med. 2003 Dec 8-22;163(22):2674-6.
Incidence of air travel-related pulmonary embolism at the Madrid-Barajas airport.
Perez-Rodriguez E, Jimenez D, Diaz G, Perez-Walton I, Luque M, Guillen C, Manas E, Yusen RD.
Pneumology Department, Ramon y Cajal Hospital, Madrid, Spain.
クラミジア トラコマティスの流行と蔓延 ( トラコーマ STD )
下記の論文は2000年(掲載時)のクロアチアの現状です。アフリカ諸国、ネパールなどでは、今なおトラコーマが流行しています。日本では現在、性行為感染症 (STD) としてのクラミジア感染症のみが蔓延しています。解説ページ
http://cgi12.plala.or.jp/yamamura/topics/index.cgi?page=31
もご一読ください。
トラコーマ–流行時と流行後の問題点
Lijec Vjesn. 2000 Jul-Aug;122(7-8):187-91.
Trachoma–an endemic and post-endemic problem
Bujger Z, Ekert M.
Klinika za ocne bolesti Medicinskog fakulteta, Klinicki bolnicki centar Zagreb.
トラコーマは、結膜の”ろ胞”増殖および”乳頭”増殖、パンヌス、末期の瘢痕化を特徴とする特異的な慢性角結膜炎です。トラコーマの原因はクラミジア トラコマティス Chlamydia trachomatis (血清型 serovar A, B, Ba and C)とよばれる細菌です。活動性トラコーマの罹患者数は、全世界では 1億4600万人で、590万人が本疾患により失明しています。WHOは2020年迄に、トラコーマによる失明を撲滅するために目標を掲げています(GET 2020 Program)。
病気の重症度判定は、Trachoma Simplified Grading System によって行われています。目標を達成するために、SAFE 戦略が使用されています。SAFE 戦略とは、Surgery for trichiasis (睫毛乱生の手術治療), Antibiotics (抗菌薬), Facial cleanliness (顔を清潔にする) and Environmental improvement (環境改善, 特に上下水道の改善) のことです。
クロアチアでは、トラコーマの流行は過去のことになりました。活動性トラコーマの患者はまれで、誤診したり不適切、不十分な治療を行った患者です。他のクラミジア感染症(眼生殖器の性行為感染症)の最近の流行は、我々をクラミジア感染症の診断、治療法について責任あるアプローチへ向かわせています。
連続装用シリコンハイドロゲル レンズと緑膿菌性角膜炎
角膜表面のムチン層が障害されると緑膿菌性角膜炎などが起こりやすくなります。特に、連続装用タイプのコンタクトレンズは感染症に対する注意が必要です。
一般的に病原菌が角膜上皮に付着して角膜感染症を発症させるためには、細菌は最初に角膜などの「眼球表面に存在する物質」に接触しなければなりません。
その物質の1つがムチンです。主に結膜 (Goblet細胞) 、涙腺、角膜の上皮細胞によって産生されるムチン ("上皮性親水性糖蛋白" Mucin) は、眼表面のバリアーとして機能するとともに、眼表面の異物 (細菌を含む) や老廃物などを囲いこみ、涙液と一緒に鼻涙管、鼻腔へ排出します。上皮細胞からのムチン分泌は自律神経や液性因子によって制御されています。コンタクトレンズ装用、ドライアイ、点眼液の副作用などによって、ムチン層が破綻しやすくなります。
「眼表面のムチン層」に障害があると感染しやすくなる細菌として、以前から「緑膿菌」がよく知られています (文献 1)。
緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa) は、土壌,水中(家庭などの水まわりを含む)に広く分布し、ヒトや動物の皮膚,上気道,糞便などにも常在しています。本来、ヒトへの病原性は弱く、健康体が感染することはほとんどありません。しかし、局所の抵抗力が低下したり、全身免疫能の低下した状態になると、感染が成立します。緑膿菌は一般的な抗菌薬や消毒液には自然耐性を有していたり、多薬剤に耐性を獲得する細菌学的な特徴があり、重篤な感染症に進展するケースがあります。
眼局所の防御・抵抗因子である内因性ムチンを眼表面から除去すると、角膜上皮細胞に付着する緑膿菌の菌数は3倍から10倍増えることがラットや家兎の実験で証明されています (文献 1)。また、他の動物種などのムチンで覆うと、菌の接着率が低下することも知られています。このムチンによる緑膿菌付着阻止効果は、35µg/mlの低濃度からみられるとのことです。
因みに、ムチンによる予防効果は、黄色ぶどう球菌(注:眼科領域では、麦粒腫の主因)、化膿レンサ球菌 (注:溶血性連鎖球菌の代表的菌種で、リウマチ熱, 糸球体腎炎, 猩紅熱などの原因となる)では発現しません。
緑膿菌性眼感染症は、コンタクトレンズが高性能となっても起こりうる合併症として、医師もユーザーも常に注意が必要です。
下記2論文は連続装用レンズによる最近の事例です。
連続装用シリコンハイドロゲルソフトレンズに関連した緑膿菌性角膜炎
Eye Contact Lens. 2003 Oct;29(4):255-7.
Pseudomonas keratitis associated with continuous wear silicone-hydrogel soft contact lens: a case report.
Lee KY, Lim L.
Corneal Service, Singapore National Eye Centre, Singapore.
方法:健康な23才白人女性。シリコンハイドロゲルソフトレンズ (商品名 lotrafilcon A) の26日間連続装用後に診察を受け診断された (左眼)。レンズを装用しながら、マリンスポーツを行った (water jet skiing and diving)。角膜潰瘍部の擦過物から緑膿菌が検出された。セファゾリンとゲンタミシンの集中点眼療法を1週間施行し、シプロフロキサン点眼液に変更し2週間投与した。
結果:細菌性角膜炎は、薬物治療が奏効し治癒した。しかし、角膜実質の瘢痕により後遺症として視力障害が残った。
結論:最近発売された高酸素透過性 (Dk値)、連続装用タイプのシリコンハイドロゲル素材のソフトコンタクトは、低酸素に関連する合併症が克服され、角膜上皮への緑膿菌の接着も少ないとされている。今回の経験例は、そのレンズでさえ視覚障害を来たす細菌性角膜炎が発生することを示した。コンタクトレンズを処方・販売する開業者は、細菌性角膜炎による視力障害のリスク、コンプライアンス(注:正しい使用法などの遵守)の必要性について患者教育を行い、コンタクトレンズによる眼症状に迅速に対応しなければならない。
(注) は原論文には記述されていない、訳者の注釈です。
夜間装用オルソケラトロジーに関連した緑膿菌性角膜潰瘍
(台湾、台北の病院からのレビュー報告)
Chang Gung Med J. 2004 Mar;27(3):182-7.
Pseudomonas aeruginosa corneal ulcer related to overnight orthokeratology.
Hsiao CH, Yeh LK, Chao AN, Chen YF, Lin KK.
Department of Ophthalmology, Chang Gung Memorial Hospital, Taipei, Taiwan, ROC.
方法・対象:2001年1月から2002年12月までの期間に発症したオーバーナイトオルソケラトロジー後の緑膿菌性角膜炎6症例(レビュー)。
結果:平均患者年齢は 13才、治療開始から発症までの平均期間 17ヶ月。
全症例で目の充血と眼痛を自覚した。病巣部は角膜中央部3例、傍中心部3例。角膜浸潤のサイズは小病変1例、中等度5例。病巣擦過にて、全例で緑膿菌が検出された。抗菌点眼薬に全症例が反応した。2例の最終視力は、感染前の視力の2段階以内であったが、4例は角膜中央の瘢痕や不正乱視により、最高視力は低下した。結論:夜間装用オルソケラトロジーではコンタクトレンズが緑膿菌性角膜炎の原因となり、明らかな視力低下を来たすことがある。
文献 (1)
http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pubmed&pubmedid=8168942
Infect Immun. 1994 May;62(5):1799-804.
Modulation of Pseudomonas aeruginosa adherence to the corneal surface by mucus.
Fleiszig SM, Zaidi TS, Ramphal R, Pier GB.
Channing Laboratory Department of Medicine, Brigham and Women’s Hospital, Boston, Massachusetts 02115.
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